平成の大合併と自然保護
2005年5月22日 中国新聞に掲載
平成の大合併は様々な分野に影響を及ぼすであろう。自然保護に関しても影響があると予想される。本格的な影響が現れるにはいま少し時間がかかると思われるが、現在までの状況の中で、市町村合併と自然保護の関係を考えてみたい。
優れた自然や巨樹・巨木などについては、市町村が自然保護地域や郷土記念物、天然記念物などの指定を行い、保護・保全を行ってきた。自然への評価は、絶対的価値で判断されるべきなのであるが、大きさなどが判断基準となっている場合には、行政単位の広さによって判断が異なることもある。樹木の大きさはそのひとつであり、国、県、市町・村などの行政単位の中での比較が大きく影響する。村や町によって指定された天然記念物は、おらが村、おらが町の象徴であったわけであるが、合併でできた新しい自治体の中では、ランキングがずいぶんと下がってしまうこともあろう。
巨樹・巨木などの事例は別として、行政単位と自然のあり方について考えてみよう。ひとつの地域における自然はどのように考えるべきであろうか。自然の在り方は、人間の必要性からの要求と野生生物の側からの必要性がある。身近に、散策できる自然があってほしいという要望は、人間側の欲求であり、その自然には安全性が求められる。ハチやヘビなどは忌み嫌われてしまう。明るい安全な里山が求められているのである。このような自然は比較的狭い地域ごとに存在することが求められるものであり、集落単位、あるいは町内会単位が基準となる。
近隣の公園・里山も生物たちには大切な自然である。しかし、自然の大きさは支えることのできる生物の大きさも規定する。小さな自然では、その大きさに見合った小さな生物しか生育・生息できない。生態系の頂点に立つ、クマタカやツキノワグマなどの大型の動物たちの生息には、まとまった面積の自然性の高い緑が必要である。町内会などの狭い地域においては、鎮守の森などの安全な自然の存在が優先され、自然度の高い地域を残すことは困難である。しかし、地域が広くなればなるほど、自然度の高い地域を残すことが可能となる。
例えば、廿日市市は広域合併によって、脊梁山脈から瀬戸内海に浮かぶ宮島までを含む、多様なすばらしい自然財産を保有することになることになった。新しい行政区画は、より広い俯瞰的な目での評価と保全を行う役割が生じるといえよう。ツキノワグマやニホンジカ、ワシ・タカなどの生息地に関しては、広くなった行政単位であっても単独で行える場合は少なく、県や国などの関与が必要な場合が多い。しかしながら、直接的に関与している地方自治体の明確な姿勢の確立が必要である。広域合併を契機とし、より包括的・総合的に地域の自然のあり方を検討し、新たな視点での、自然との共生を目指す地域の環境管理計画を立案すべきである。