自然を脅かす外来生物

2005年7月3日 中国新聞に掲載 


 京都の深泥ヶ池では、オオクチバスやブルーギルなどの外来魚を駆除する活動を行ってきた。その結果、池の水が透明になった。何故水が透明になったのであろうか。その仕組みについて生態学会で発表があった。

 オオクチバスなどの外来魚は、小魚などを食べる肉食魚であり、在来の魚が駆逐されてしまうことが予想されていたが、水質にまで影響を及ぼすとは予想されていなかった。バスやギルが在来の魚を食べつくすと、比較的大きな動物プランクトンを食べるようになる。植物プランクトンを食べる動物プランクトンが減少すると、植物プランクトンが大繁殖し、水が濁るという仕組みらしい。

 透明度が低下すると、光が水底まで到達しなくなり、生育する水草も消滅してしまう。水底の水草がなくなると、底は無酸素状態になりやすくなり、トンボのヤゴなどにも大きな影響が出るのではないかと思う。外来魚の生息によって、ため池の生態系が大きく変化してしまうことがわかった。

 岡山県自然保護センターでは、ヌートリアによる被害が発生した。センター内のため池には、設立当時から、外来動物のヌートリアが住み着いていた。南アメリカ原産の大型のネズミで、体長は50センチから70センチもある。1930年ごろに毛皮を取るために導入され、その後、野生化した。ネズミの仲間なので雑食であり、また多産である。その後、次第に数が増加し、周辺に大きな影響を与えるようになった。まず、水草のヒシが全滅してしまった。ため池周辺のヨシなども食べられてしまい、水底に生息するドブガイも被害にあうことになった。多くの動植物や水質に影響があったが、その後駆除によって、ため池の自然はもとに戻りつつある。

 日本には、元来ヌートリアやバスのような動物はいなかった。在来の動植物は、これらの外来動物に対する準備ができていない。直接食べられてしまう動植物だけでなく、食物連鎖を通じて、思わぬところに影響が出てくる。

 人間は、長い歴史の中で、数多くの外来生物を日本の自然の中に放してきてしまった。有用生物は積極的に導入され、その中のいくつかは、野生化し、分布を広げ、日本の自然に影響を与えている。近年は、湿原に外来のモウセンゴケを植えたり、カミツキガメが小川でみつかるなど、趣味として栽培・飼育されていた動植物が野外に放されてしまうことが目立つ。

 本年の6月、外来生物法が施行された。むやみに外来生物を持ち込み、自然に放してしまうことが禁じられ、罰則も設けられたが、対象とされている生物の数は、まだ少ない。法の精神は、外来生物を「悪影響を及ぼすかもしれない外来生物をむやみに日本に導入しない」、「飼っている外来生物を野外に放さない」、「野外にすでにいる外来生物は、他地域へ分布を広げない」ということであり、そのアピールでもある。影響が出てきた時点での撲滅には、膨大な時間と努力・経費が必要となる。外来の動植物を自然に放すことは、絶対に慎まなければならない。

 本年の渇水は深刻なもので、多くのため池は水位が低下し、干上がってしまうのではないかと思われる。人間には大きな影響を与える渇水であるが、外来魚の駆除には絶好のチャンスである。


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