自然災害に強い自然育成を
2005年8月14日 中国新聞に掲載
地球温暖化の影響であろうか、季節外れの台風、記録的な集中豪雨など、自然災害の頻発が懸念される。昨年、岡山では台風23号によって5700ヘクタールもの植林がなぎ倒され、その被害額は67億円にものぼった。
被害の状況は地域によって様々であるが、岡山県県北の山々では、見渡す限りのスギやヒノキが倒伏し、あるいは幹の途中から折れている。まことに無残であり、林業家の心中は察して余りある。被害のあった森林は復旧されつつあるが、木材価格の低落もあって、放置される場所も多いのではないかと思われる。
風を受けやすい尾根筋や急傾斜地で被害が大きく、その後の降雨で斜面が崩壊しつつあることも問題である。地形を無視し、急傾斜地においても一様な植林が行われたことが被害を大きくしている。雑木林を適度に残すべきであったろう。
スギやヒノキなどの植林地は、台風などによって大きな被害を受けてきた。今回の被害においても、周辺のコナラなどの広葉樹林はほとんど被害を受けていない。スギやヒノキなどの常緑針葉樹は、落葉広葉樹に比べて葉を数倍以上も保持しており、風の力を強く受けてしまう。針葉樹の根は、深くまで発達する直根がないないことも倒れやすい原因のひとつである。
近年、コナラや常緑カシ類などによる樹林の造成が行われるようになってきた。木材の生産よりも、景観や自然性を重視したもので、公園や宅地開発などの際に行われることが多い。コナラやアベマキなどの広葉樹は、地中深くに根を発達させるので、土砂崩れなどの自然災害には強い抵抗力を持っている。しかしながら、苗を植栽したものでは根の発達が悪いためにその力は弱い。ドングリからその土地に芽生えてこそ、その力を発揮できる。
根の発達のみならず、苗の移植には次のような問題点がある。樹木苗の生産は、その種の生育しやすい地域で行われる。落葉広葉樹は東北地方で、アラカシなどの常緑広葉樹は温暖な九州で大量に生産されている。これらの地域で生産された植木や苗木が遠路運ばれてくるわけである。植物に限らず、生物はその地方の環境に適応したものとなっている。同じ種であっても、地方によって性質が異なっており、遺伝的に違うわけである。このような地域の系統は、非常に長い年月にわたって、その地域の気候変動を乗り越えてきた。高温や低温、旱魃などの異常気象を乗り越えて選抜されたのが、現在の郷土の植物であるといえよう。緑化に使用する樹種に関しても、地産地消が適切である。
自然の規律の中で発達した自然は、自然災害に対して強い抵抗力を備えており、人間が改変すればするほど、弱い自然になると考えてよかろう。風当たりや傾斜などの地形条件や気象条件などの基本的自然環境を尊重し、過度な利用を避け、謙虚な姿勢で自然と共生することが必要である。自然理解が災害に強い自然を育てることになる。