植林よりも育林を

2005年4月中旬 中国新聞に掲載 


 人間は様々な植物を植えている。畑に野菜を、花壇には花の苗を植える。何の疑問もなく、苗を植えているのだが、移植されている植物はどう思っているのであろうか。樹木も草と同じように、安易に移植していいのであろうか。

 樹木の植栽には、苗をポットで育てた「ポット苗」が使われることが多くなった。特に広い面積を樹木の苗によって緑化する際によく使われている。根鉢を崩さずにそのまま植栽することができるために枯死することも少なく、運搬や植栽作業にも便利である。

 岡山県の自然保護センターでは、工事で発生した斜面にアラカシやシラカシ・スダジイなどの常緑カシ類のポット苗を植栽した。この斜面が豪雨時によって崩壊してしまった。高さ数メートルの木が生えたまま、まるで布団がずり落ちたように表層が崩壊したのである。根を調べてみると、表層30cmのみに根が発達している。ドングリの仲間の特徴である、地中深くまっすぐに伸びる直根がまったく発達していなかった。

 どのように根が発達するのか、ガラス板で根が見える装置の中でポット苗を育ててみた。ドングリの仲間は秋に地面に落ちるとすぐに根を伸ばし始め、葉を広げる頃には、すでに15〜30cmセンチほどの根を地中に伸ばしている。その後、ゆっくりとした地上部の成長に比べ、地下部の成長は急速で、一年で1mを超えてしまった。大きく成長したアベマキやコナラでは、3m以上の深さにまで直根が伸びており、地上部をしっかりと支えているのである。

 三年までの幼いポット苗ならば、直根を再生することがわかった。しかし、それ以上の長期間、狭いポットの中で育てられた苗では、直根が再生してこない。

 ドングリは、親から大量の栄養分をもらい、まずは、無駄とも思えるほどのすばらしい根を発達させる。しかし、直根を発達させるのは、三年までで、それ以降は、主に横に広がる根を発達させるようである。移植された樹木は、横に広がった、栄養分を吸収する根のみを発達させ、もはやその木のあるべき姿の根を形成できないと思われる。樹木の場合も、「三歳児の魂、百まで」なのである。

 みどりの日には、各地で植樹祭などのイベントが行われる。しかし、樹木の側から見れば、移植ではなく、種をまいて育ててほしいと思っているに違いない。特に災害に対して強い抵抗性を要求される斜面の樹林化では、種をまくか、三年までの幼い苗を植栽すべきである。樹木の遺伝子には、移植されることを想定した対応策は準備されていない。本来の森は、「植樹」ではなく、地元の種から発芽した樹木からのの「育林」が望ましい。

 
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