アカマツ Pinus densiflora (マツ科 マツ属)
【燃料としてのアカマツ】
アカマツは用途の多い樹木である。樹脂を含み、燃えると高温を発生するのでマツ葉も含め、燃料としては非常に優秀である。炭としても良質であり、刀鍛冶などに用いる炭としては欠かせないものであった。松の薪が燃料として優れているのは、樹脂を含んでいることの他に熾き(おき)ができにくいこともあげなければならない。カシ類の薪は着火してもなかなか燃え進まず、たくさんの薪を一度にくべると熾きができて炉がつまり、温度が低下してしまう。松の薪は一気に燃えて灰も吹き飛んで、ほとんどなくなってしまう。キャンプファイアーをやった経験のある人ならわかるはずであるが、松は翌日には灰すら見あたらないほどになってしまうが、カシの薪は翌朝までくすぶっている。このような松の性質は、たくさんの薪を長期間焚き続ける窯業にはもってこいの燃料であった。
備前焼は上薬をかけない焼き物である。高温で焼き締め、長い場合には一ヶ月も火をいれていたこともあるという。備前焼は傾斜地にいくつもの部屋を備えた登り窯で焼成するが、火の焚き口に続く燃焼室は意外と狭い。ここにカシの薪をいれるとすぐに詰まってしまうであろう。アカマツの薪ならではの炉の造りである。備前焼は釉薬をかけないが、アカマツの燃えた灰がかかって自然に釉薬をかけたようになる。備前焼はマツなくしては成立しない焼き物である。
【木材としてのアカマツ】
建築用材としては軽く、その割りに強いので、梁などによく使われた。幹比重はセイタカアワダチソウ程度しかないが、年輪部分の強度が高く、多重のパイプ構造になっているためであろう。松脂が蓄積されて飴色になったものは高級な建築用材であり、このような松材による建築は、総檜造りよりも遙かに高価であるという。ただし、夏の高温時期には松脂がしみ出てくるので拭き掃除を欠かすことができず、維持は大変であるらしい。使用人を雇っている旧家ならではの建築家もしれない。
水中では腐りにくく、橋脚の基礎固めなどの杭として、現在も利用されている。江戸時代などに建設された橋の基礎部分から、ほとんど変質していない松丸太が発掘されることもあり、水中では大変腐りにくいらしい。軽くてその割りに強いために、鉱山の杭木としてもよく利用され、炭坑全盛時代には比較的若いマツ丸太が大量に使用された。
【松明(たいまつ)】
マツ脂が集積された部分は飴色になり(肥え松)、火を付けると明るい炎を出してよく燃焼する。昔は灯明として利用された(=たいまつ)。肥え松は燃焼するときにススを出す。これを集めると高級な墨の材料となる。肥え松(こえまつ)は枝を切ったりした場所にもできるが、これは小さくて取りにくい。もっとも大きなものは松を伐採したときの切り株である。松を伐採してある程度の年月が経過すると周辺の部分が腐朽して肥え松の部分だけが残る。この部分を掘り取って、小さく割り、灯明として利用した。歴史的にはこのような肥え松を掘り出すために森林が荒廃し、禿げ山になってしまった時代もある。
アカマツはこのように大変利用価値の高い樹木である。このために昔から積極的に植林したり、生えやすいような地表処理が行われたに違いない。マツ枯れ病が広がる前、関東地方にも広大なマツ林があった。調査してみると、マツは一列に並んで生育しており、マツが生育していること以外は周辺のコナラ林とは変わらない。ツツジ類が全く生育していないマツ林であった。このようなマツ林は、マツの有用性のために積極的に造林されたものであろう。