ヌートリア Myocastor coypus (げっ歯目 ヌートリア科 ヌートリア属)
岡山県自然保護センターのヌートリア
 岡山県自然保護センターには2つの大きなため池があり、ヌートリアが棲んでいる。自然保護センター内は当然のことながら、鳥獣保護地域に指定されており、2つのため池の内、上流側の上池にはタンチョウが野外飼育されていることもあって、結果的には完全に保護された状態で、ぬくぬくと生活を送っている。
 センター内のヌートリアは狩猟されることもなく、日中堂々と活動しており、来訪者には日頃ほとんど目にすることが不可能なほ乳類を観察できる場として好感をもたれているのが現状である。ここでは、帰化動物であるヌートリアの存在が自然保護センターの植生にどのような影響を与えているかについて述べてみたい。

上池における水草相の変化
 自然保護センター開所時点では、上池は一面ヒシに覆われていた。その後、ヌートリアの活動が活発になるにつれ、ヒシは少なくなり、ついにほとんどなくなってしまった。ヒシの植物体を食べたのか、種子を食べたための消滅かは明らかではないが、とにかく広い水面からほとんどの水草がなくなってしまったのである。生き残ったのは後から導入したオニバス、湖岸のショウブ、カサスゲなどのスゲ属植物程度ではないかと思う。オニバスの鋭い棘、ショウブの強い香り、カサスゲの葉に大量に含まれる珪酸はヌートリアも苦手らしい。

ミクリの繁茂
 センターの自然観察を行うための池にミクリを植栽した。このミクリもヌートリアのターゲットとなった。困ったものだと思っていたら、ヌートリアが食べ散らかした地下茎の一部が他の場所に流れ着いて再生し、結果的には分布面積が飛躍的に拡大することになってしまった。ヌートリアはミクリの植物体全部を食べるのではなく、葉の根元部分だけを食べるので、結果的には地下茎が掘り出され、放置されることになる。ミクリは葉を食べさせることによって、利益を得ていることになる。ミクリは減少している植物の1つであるが、水際の植物を食べる動物がいなくなったことが、減少の一因かもしれない。

 オニバスやミクリなどの減少しつつある植物が、ヌートリアが生息することによって、かえって生育状態が改善されている。動物がいなくなったことが、絶滅危惧種を増加させている一つの原因であるに違いない。
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