ロゼット葉とは?
タンポポなどの多年草やヒメムカシヨモギ、オオマツヨイグサなどはロゼット葉を形成する。「ロゼット」とは、バラの花の形を意味する言葉であるが、「ロゼット葉」は地面に葉が広がって立ち上がっていない状態を指している。以下の画像のように、地表面に張り付いているタイプのものだけではなく、やや立ち上がっているものも、ロゼット葉に含める。
ロゼットは省力タイプの葉
ロゼット葉は葉を支えて地上から持ち上げる支持器官(茎)を作る必要がない。したがって、支持器官を作るためのエネルギー投資が不要であり、その分、低コストな葉の展開様式である。しかしながら、葉を高い位置に展開させる能力を持った競争相手がたくさんいる場所では、十分な利点を発揮することはできない。ロゼット葉の利点を十分活かすには、少なくともその植物の生育期間は競合する植物があまりいない場所である必要がある。
競争相手のいない場所
茎を形成して葉を高く持ち上げる競合植物の少ない場所とはどのような立地であろうか。崖崩れなどで発生した新しい裸地では様々な植物が侵入して大きくなるまでにはある程度の年月が必要であり、ロゼット葉を形成する植物の生育場所となる。このような新たな裸地の中でも、乾燥しやすい場所や過湿な湿原、栄養分をあまり含んでいない痩せ地等では省力タイプのロゼット形成形の植物が長期間生育できる。例えばサジガンクビソウやノギラン、ショウジョウバカマ、キセルアザミなどはこのような場所に生育している。
最初はロゼット葉から
畑などの耕作地では丁寧に除草されるので、省力型のロゼット植物が活躍できる場所である。多くの畑では秋に収穫が終わると栄養分に富んだ広々とした裸地が出現する。このような場所ではヒメジョオンやオオアレチノギク、ヒメムカシヨモギ、メマツヨイグサ、オオマツヨイグサなどの秋に芽生える植物のロゼットが形成される。これらの植物は冬季の競合する植物が少ない間はロゼットで過ごし、春から芽生える高い位置に葉を形成する植物が生え始めると自らも茎を形成して高さ競争に参加する。臨機応変な戦略である。もっとも、ロゼットを形成する植物であっても、花は目立つように高い位置にある方が有利であり、種子散布に関しても同様である。このような植物は、背丈が高くなるにつれてロゼット葉を廃棄し、無くなってしまう場合が多い。
このような季節によって、あるいは成長段階によって葉の展開戦略を変える植物は結構多い。オミナエシやオトコエシ、マツバニンジン、ササユリ、タカサゴユリなども最初の年(あるいは小さい間)はロゼット状の葉を地面に広げる。この方が、経済効率が高いからであろう。
草刈り場ではロゼット葉が有利
競争相手が定期的に刈り取られる場所でもロゼットを形成する植物は有利である。草丈が高くなる植物は刈り取られたり草食獣に食べられる危険性が高いが、地面にへばりついている植物は刈り取られても被害は少ないであろう。芝生では定期的に刈り取りが行われるが、セイヨウタンポポには大きなダメージがなく、広がって害草となっている。耕作地の畦などでは農作業に伴って刈り取りが行われる。秋の収穫時にきれいに刈られた畦道には、カンサイタンポポなどの在来種のタンポポが生育する。秋から春までの夏草が茂らない場所に生育し、夏草が茂る頃には休眠してしまう。これらの他、ギシギシやスイバなども同様に刈り取りのある草原に生育する。冬の間はロゼットを地面に広げ、夏草が茂る頃には葉を立てる。
このような刈り取り草原に生育するロゼット植物は、地下に栄養分を蓄え、葉を刈り取られても最小限のダメージでやり過ごし、地下の栄養分で速やかに葉を再生できる。多年生の人里植物には、このようなタイプの植物がたくさんある。
冬の日だまりの中
冬の南向き斜面は日光がよく当たる。太陽高度が低いので、平坦地よりもある程度の斜面である方が、より強い太陽エネルギーを得ることが可能である。日光が当たると冬のさなかでも昼間は地温があがる。最近は微小電極によって葉の温度が測れるようになってきた。極寒の季節でも、直射日光が当たると結構葉温は上昇し、光合成ができるまでに簡単にあがるらしい。逆に北斜面は日光も直射光はあたらず、地温も低いことになる。冬の南向き斜面は結構いい環境なのである。
冬の光合成は結構高能率
他の条件が揃えば気温が高い方が光合成速度は速い。したがって、植物の総収入は気温の低い冬よりも夏の方が多い。ところで実際に植物にとっての利益は総収入から呼吸などによって消費されたエネルギー量を差し引いたものである。呼吸の量はどうであろうか。呼吸も化学反応であるので、温度が高いと速い速度で進行する。気温の高い夏は光合成も盛んであるが、呼吸も激しいことになる。特に熱帯夜などのように夜も気温が下がらない時期には昼間に儲けたものを夜間に消費してしまうことになる。植物たちも結構寝苦しいのである。一方、気温の低い冬季には光合成は盛んではないものの、呼吸は非常に低いレベルに押さえられるので、結構純利益はたくさんある。冬の日だまりに生えている植物は小さな葉しか付けていないが、結構高能率の光合成を行っている。
冬の葉と夏の葉
光合成などの化学反応は酵素によって行われる。酵素には最もよく働く温度やpHなどの条件がある。最近の研究では、生物は冬に働く酵素と夏の酵素を使い分け、それぞれの季節で活発に活動していることがわかっている。例えばコイは冬でも活発な活動ができる。これは夏用の酵素と水温の低い冬季用の酵素を使い分けているからである。一年中葉を維持している常緑植物も高温用と低温用の酵素を持っている例がわかっており、気温の変化が大きい温帯の常緑植物の多くはそのような能力を持っている可能性が高い。外から見ると変化のない葉であるが、夏と冬とでは中身はごっそり入れ替わっていると言える。
草本ではどうなのであろうか。少なくとも在来種のタンポポは冬用の低温で働く酵素を持っており、効率の悪くなった夏では眠ってしまうのであろう。ヒメジョオンなどは秋から春までは低温用の葉を形成し、初夏からは新しい夏用の葉を形成し、冬用の葉を放棄するのであれば、理にかなっている。
(背景はセイヨウタンポポのロゼット)
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