ヌルデ Rhus javanica L. var. roxburghii (DC.) Rehder et Wils. (ウルシ科 ウルシ属
 ヌルデには「ヌルデシロアブラムシ」が寄生し、大きな虫こぶを作ることがある。この虫えいを割ってみると、中には黒紫色のアブラムシが多数生活している。この虫えいを「五倍子;ごばいし あるいは 付子;ふし」と呼ぶ。この五倍子にはタンニンが多量に含まれており、お歯黒や白髪染めの色素原料として利用されていた。

【お歯黒】
 歯を黒く染める風習であり、その歴史は有史以前に遡るという。平安時代の貴族は男女ともにお歯黒を施し、成人したことを示すものであったという。その後武家にもこの風習が伝わり、既婚の女性が夫のあることを示すものへと変化したという。お歯黒は虫歯と歯槽膿漏を防ぎ、冷たい水がしみるのを防ぎ、口臭を防ぐ効果もあった。
 庶民が一般に使っていたお歯黒はかなりの手間隙をかけて作られたものであった。まず、おかゆと麹(こうじ)でまずアルコール発酵させ、その後に酢酸発酵させて酢を作り、これに錆びた鉄を入れて酢酸第一鉄の溶液「かね水」を作る。購入してきた「ふし粉」と「かね水」を交互に歯に塗りつけ、歯を染め付けた。
 明治はじめにお歯黒は禁止され、衰退した。禁止の理由は、二夫にまみえず等の女性蔑視の思想に対するものであり、既婚女性へのお歯黒の風習が人権蹂躙・人身拘束であり、黒い歯がなかなか白くならず、再婚への障害になるなどであった。お歯黒が禁止されると、女性の虫歯や歯槽膿漏が増加するなどの障害が多発し、お歯黒の生産は再開されたが、やがて廃れていった。
【香登のお歯黒】
 岡山県備前市の香登(かがと)地区は高級お歯黒の生産地であった。香登のお歯黒は五倍子とローハ(緑ばん;硫酸鉄)と貝灰を混合して作られたものであり、簡単に歯を染めることができたという。岡山県成羽町吹屋地区は日本最初のローハ生産地であり、これと関連した産業であったと思われる。
葉に形成された虫こぶ開いた虫こぶかから脱出するアブラムシ
虫こぶの拡大虫こぶの内部

1.ヌルデ 2. 3. 4.果実 5.冬芽 6.樹皮 7.根発芽 8.虫こぶ 9.仲間の区別点

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