アカメガシワ Mallotus japonicus (Thunb.) Muell. Arg.  (トウダイグサ科 アカメガシワ属
 平成5年の秋、当時の卒論生 望月聡太君はルートシステムをテーマに選び、学内に生育していたアカメガシワの根系を調査していた。小生としては軽い気持ちで、「アカメガシワを1本掘り取っておいで」と言ったのだが、なかなか掘りとれたという報告がない。聞いてみると、隣接しているアカメガシワの他の個体とつながっているらしいとのこと。早速現場に見に行くと、大変なことになっていた。一群のアカメガシワは、全て繋がっていたのである。それからの作業は大変なものになってしまった。斜面に糸を張って方眼を作り、まるで遺跡の発掘作業になってしまった。一部分は掘り取りを断念したが、ほぼ掘り取ることが出来た部分を図化したのが下の図である。

 アカメガシワの 赤く塗った部分は幹の切り口であり、1本の親株から20本近い子幹が発生している。これらの幹あるいは根の年輪解析から、次のような事実が判明した。
 1978年、このアカメガシワは岡山理科大学7号館の北側校舎が建設された直後に芽生えた。以後、順調な生育を見せていたが、8歳時に伐採された。その後、切り株からの萌芽再生があったとともに、張り巡らされていた根の各所から地上茎が形成され、勢いの良かった15本程度が生長し、生き残った。
 この図で右側に再生個体が少ないのは、樹林が接しているからである。

 このようなアカメガシワの戦略を見ると、地上部を長期にわたって維持する事に労力をかけるのではなく、親個体が他の樹木によって被陰されると、親個体をさっさとあきらめ、光の十分当たる場所から新しい個体を再生して生き延びることをねらっているように思える。このように見ると、アカメガシワは結構移動能力を備えていると言えよう。

 種子の表面には油脂があり、休眠性が高く、そのまま播種したのでは発芽率は低い。一度高温環境にさらすと発芽率は飛躍的に高くなる。森林の中に落下した種子は温度変化の少ない環境の中で長期間休眠し続け、伐採や山林火災などの森林破壊を待っており、森林が破壊されると急速に芽生えてくる。世界的にもアカメガシワの仲間は高温環境で発芽率が高くなる種が多いらしい。幹にはタンニンなどの蓄積が少なくて腐りやすい。幹の手入れはおろそかになっているが、種子はしっかりとした作りである。樹木そのものは長寿ではないので、早々に種子を生産し、散布された種子は土の中で長期にわたって伐採などの攪乱を待機しているわけである。

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