食う−食われるの関係
ここでは、生産者である植物と、これを捕食する一次消費者の関係を見ていこう。草食の昆虫やほ乳類などは植物を食べないと生きてゆけない。一方、植物側から見れば、食べられると光合成系に大きな被害を受けてしまう。単純に考えれば、植物側は食べられないことがベストであるが、世の中はそのようになっていない。得られる資源が一定量であるならば、防御に投資すれば成長速度は遅くなってしまう。生長に投資するか、防御に投資するか、植物の葛藤である。
(1)物理的対策
a.棘
b.毛
植物の毛の役割にはいくつかあるが、昆虫による摂食を妨害する役割もある。チョウ・ガ類の幼虫である毛虫は、卵からふ化した直後は非常に小さいので顎も小さく、かみつく力も弱い。毛の存在は幼虫が小さな段階で大きな威力を発揮する。
参考事項:ヒロヘリアオイラガ
c.葉の堅さ
葉の表面が堅いと、毛虫の食害にあいにくい。多くの毛虫は孵化直後には集団生活を行う。これの理由の1つは葉をかみ切る力が弱いために、かみ切りやすい、他の個体がかみ切った組織の隣を食べるためである。毛虫が小さな段階では、葉の堅さは幼虫の生存率に大きな影響を与える。
葉の硬い植物:ウバメガシ
一般に、痩せ地などの植物の生育にとって過酷な条件になるほど、有刺植物が多く、有刺植物の棘の発達は顕著である。また、葉も小型で堅い場合が多い。植物は生育立地によって棘や葉の堅さに対しての投資量を変えていると言えよう。このような対応は、生残において植物間における競争が主眼であるか、動物による被食回避が重要であるかによる投資戦略の違いとして考えることができる。
(2)化学的対策
a.栄養物質の含有量
タンパク質の含有量が高い葉を食べると、昆虫幼虫の生残率は高くなる。植物側から見れば、タンパク質の含有量を低下させれば、被食される可能性は低下することになる。この間系は、痩せ地に生育する個体は被食されにくく、栄養分の多い畑に生育する作物はいわゆる害虫の餌食となりやすいことを示している。
同様に、水分不足の環境に生育する個体を捕食した昆虫幼虫の生残率は低い。これは幼虫の水分補給が葉の摂食のみによって供給されることと大きな関連を持っている。また、水分ストレス状態にある植物は、(3)に述べる阻害物質の含有率を増加させていることが多い。
b.植物の生育量
毛虫は植物を食い尽くすと隣接の同種個体へと移動せざるを得ない。移動の際には他の動物による攻撃など、多大な危険が伴うし、同じ食べ物に出会える可能性も高くはない。植物としては、同種の個体が多数隣接して生育することは、遺伝子交換や環境形成などの観点からは好ましいことであるが、動物による被食を考慮するならば、生育量は少なく、転々と生育している方が有利となる。
c.防御物質
動物にとって、毒になる物質や生育を阻害する物質を含有すれば動物による摂食を防止することができる。このような物質は「質的阻害物質」と「量的阻害物質」に分類される。
【質的阻害物質】:−高い毒性を示す低分子化合物−
微量でも防御効果がある物質であり、生産に関して低コストである。しかしながら、対象となる動物が解毒酵素を獲得してしまうと、これらの化学物質の存在は無意味となってしまう。このような物質の代表としては、各種のアルカロイド、カラシ油配糖体などがある。アブラナ科植物はカラシ油配塘体を含有しており、これが多くの昆虫幼虫の阻害物質となっている。このカラシ油配塘体は辛味として感じられ、この仲間のワサビはこれを多量に含んでいる。
カラシ油配塘体は殺菌作用などがあり、鮨とワサビなどのように、生ものの保存に有効であり、昔から利用されてきた。このような阻害物質ではあるが、モンシロチョウはこれに対する解毒酵素を獲得しており、逆にカラシ油配塘体を含まない植物は摂食できない。モンシロチョウは解毒酵素を生産するためにコストをかけているわけであるが、その投資に見合った食物を独占できている。
【量的阻害物質】:−毒性はないが食物の消化作用を著しく妨げることにより、昆虫の発育を阻害し、死亡率を高める−
防御には多量であることが必要であり、ハイコスである。しかし、どの動物にも有効であり、確実に効果を得ることができる。具体的には、セルロース、フェノール性化合物、タンニンなどの物質がこれにあたる。これらは消化活動に変調をきたさせ、生育を不良にする。
これらの量的阻害物質は、我々の生活から見れば、お茶に含まれるタンニンや食物繊維としてもてはやされているセルロースなどであるが、これらを摂取しすぎると、問題を発生する。逆に言えば、これらを摂取しないような食生活に「改善」してきたわけであるが、度が過ぎてしまったのが現状であろう。
このほかの参考事項:桜と毛虫、ヤマナラシと毛虫、岡山県自然保護センターのヌートリア
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